レオニスの泪

どうして彼女は僕に謝った?
彼女が僕に謝らなければならないことなど、何一つない。

僕が謝らなければならないことは、幾らでもあるけれど。

彼女が切った風が、僕に当たる頃には、彼女の姿はもうなくて。
暫くその場で立ち尽くした挙句、気付けば、足が、あのアパートへと向いていた。

――今度は、助けられて、良かった。

追いかけて、良かったと、こんなに思った事はない。

真っ暗な部屋に入って、電気をパチリと着けると、どっと疲れが押し寄せてくる。

我慢できず寝室に入って、ベッドに突っ伏した。

星だらけのこの部屋。
いつも、朱李との思い出だけをなぞるこの部屋で。

朦朧とした意識の中、浮かぶのは。

初めて見た、葉山祈の笑顔だった。


――彼女は、もう、大丈夫だ。

止血の仕方も、怪我をしない方法も学んだ。

だから。

水曜の夜、彼女は公園に、きっともう来ない。

ごめんねの意味を、知る術も、ないのだろう。
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