レオニスの泪
相手は、私が名前で呼んだことに驚いたようだ。
え、と一瞬固まる。
「覚えてくれていたんですか。」
どこか固い、緊張が走っているような表情が、少しだけ和らぐ。
「もちろんです。少し前ですけど、その節はありがとうございました。今日は、何かお探し物ですか?」
店員として、呼び止められたのだと思っていた私は、完全な営業スマイル。
「いえ、、、そうじゃなくて…ちょっと話せませんか?」
「え?私、ですか?」
接点など一度しかなかったのに、何の用だろう。目を瞬かせて訊き返すと相手は頷く。
「はい。少し時間ありますか。数分で良いんです。もし難しいようなら、退勤時間まで待っています。」
チラと自分もバックヤードの柱に掛けてある時計を見るが、休憩時間は始まったばかり。数分なら大丈夫だろう。
「ちょうど今から休憩時間なんです。荷物だけ持ってきますから、少し待っていてもらっても良いですか?」
私がそう言うと、久世は明らかにほっとした様子で、また頷いた。