レオニスの泪
「はい、どうぞ。」




まず、お辞儀をしながら入室した私の視線が捉えたのは、ドクターの革靴。


継いで、左手薬指に光る指輪。


それから―。




「なっ!!!???」





驚愕の事実。



反射的に仰け反ったせいで、バン!という派手な音と共にスライドドアに背中を打ちつけた。


ずる、と帽子が後方にずれて、マスクで覆った口元以外の顔が割れる。



「葉山、祈(いのり)さん、こんにちは。」




瞬きを何度もして、目の前の対象が見間違いではないかと確認するが。




「初めまして―じゃなくて、久しぶり、かな?」



その言葉は、私があの時の私だと理解していることを示していた。



こないだはかけていなかった眼鏡の奥の瞳が悪戯っぽく光る。





「な、な、な、なんで貴方がっ!!!??」



「ちゃんと来てくれて安心したよ。」



満足げに笑う医者、もとい、いつかのベビーフェイス。


私の反応なんてお構いなし。



そして、相変わらずふわふわの茶色い髪を揺らして。




「僕の名前は神成伊織(しんじょういおり)。宜しくね。」



簡潔な自己紹介をした。
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