レオニスの泪
久世は、そこで、言葉を切った。
場違いな程爽やかな風が、青い匂いを運んでいる。
私は、その場に立ち尽くして。
神成の、過去を知った所で、自分に何ができるのだろうと、己の無力さを噛み締めていた。
まして自分は、アカリと同じ立場なのだ。
神成が指輪を付ける理由は、そこにあったのだ。
それが、彼の引いた境界線。
それを自分は、なんて横柄な態度で、言葉で、踏み潰そうとしたんだろう。
「私、も……私も、神成先生の、患者、ですから……だから、力には、なれないです。なれませんでした……」
何も知らないのに。
彼を幾度傷つけただろう。
出てくるのは、後悔ばかりだ。
診察を受けるばかりで、自分のことしか見えてなくて。
診察をしてくれる側だって、同じ人間なのに。
ただの、人間なのに。
「患者だって聞いて驚きましたけど、、、勝手な言い分かもしれないけど……違うって思うんです。」
自分自身の過ちに、うんざりする私を見て、久世が首を振った。
「――何が、ですか。」
頭を抱えて、どうにかなりそうなのを、必死で抑え込んでいる私は、きっと態度が悪いだろう。
訊き返し方も、少し刺々しくなっている気がする。
色々な意味で、自己嫌悪に陥りそうだ。