レオニスの泪
―宜しくねって…


不安定に引っかかっていた帽子が、ぱたりと床に落ちる。





「ちょっと待ってください。私診察室を間違えたみたいで―」



「いや、合ってるよ。書いてもらった問診表もこちらに届いてるし。」




ベビーフェイス、もとい、神成は、横目で机の上に置かれた紙を見た。



「じゃ、何かの手違いじゃないですか?私紹介状を書いていただいたんですけど…」



「それも、ここにある。」



いやいやいや、と私は、首を横に振った。



「そしたら、条件が違います。私は、経験があって、ベテランで信頼できる腕の良い先生ってお願いしたんですから。失礼ですけど、貴方はどう見ても新米…そうじゃなくとも、若過ぎます!だから、私出直してきます!」




私の必死の訴えを、きょとんとした顔をして聞いていた新成は、最終的に弱ったなぁと頭を掻いた。




「よく…言われるんだけど…僕、こう見えてとっくに30越えてるんだけど…」



「へぇ?!よくもそんな見え透いた嘘が吐けますね!どう見たって、良いトコ23,4じゃないですか!下手すりゃそれより下に見えますけど!」




絶対、嘘だ。

私は、スライドドアに背中をくっつけたまま、新成に人差し指を突きつけた。



「嘘吐いても何のメリットもないでしょ。しかし、吉田先生が僕のことをそんなに買ってくれてるなんて光栄だな。」




本人は何処吹く風で、今度は照れたように鼻の頭を掻いた。



「ですから!人違いです!」



「まぁまぁ、落ち着いて。」



「落ち着いてられません!帰ります!」



そう叫んで、身体を反転させる。


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