レオニスの泪
「――どうして……?」
神成が、問いかけてくる。
答えは、分からないけど。きっと。
「強いって自己暗示をかける時は、怪我をした時に、有効です。慧なんかにもよくやります。だから……」
転んで、膝小僧を擦りむいた慧に、私は強い、と言う。
それは親から教わったと思う。
泣かないで、偉いね。と。
強いんだね、と。
私は、言い聞かせて来た。
辛いことが起きる度に。
自分は強いから、こんなことで泣いたりしない。
立ち止まったりしない、と。
周囲がそれを求めたし、一度転んだら起き上がる労力がかかるから。
「アカリさんは、先生に、自分の為に、泣いて欲しくなかったんじゃないですか……?」
彼女はきっと、神成の事を考えて。
弱さを見せることができない神成の事を想って。
周りの事ばかり考えて、笑う癖がある、愛する人の事を慮って。
「先生の事を想ってたから。先生の事を考えてたから。自分の身に、何かあった時の為に、先生に暗示をかけて……自分の為に悲しまないように。泣かないでって伝えたかったんじゃないですか……?そこから、起き上がるのには、1人だと時間が掛かるから。」
私がそう言うと。
神成の表情が、驚きに変わる。
そして。
―― ポツ、と。
降り始めの雨のような、真っ直ぐな涙が。
神成の目から、零れ落ちた。