レオニスの泪


二人、居たベンチから、出発ロビーまで、無言だった。

「久世さんが、教えてくれたんです。」

搭乗ゲートで、葉山祈を振り返ると、彼女はそう言った。

「久世が?」

訊き返すと、葉山祈はうんと小さく頷く。

「先生のこと、待ってます。久世さん。ちゃんと連絡してあげてください。心配、してましたから。」

続いて僕のマンションの鍵を差し出した。

「これ、お返ししますね。」

笑ってはいるが、彼女の手は震えている。

僕はそれに気付きながら、気付かないふりをした。

「……ありがとう。」

持っていて、と言いたい気持ちがないと言えば、嘘になる。

だけど、僕はもう、新しい道へ片足突っ込んでいて、彼女もやはり、僕より一足先に、新しい道を歩み始めている。

中途半端な約束なら、きっとない方が良い。




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