レオニスの泪
鍵を受け取って、それを見てから、葉山祈の顔を見る。
君はもう大丈夫。
僕ももう、大丈夫。
傷口は塞がって、新しい組織ができて、再生に向かっている。
「祈さん。本当に色々ありがとう。」
僕が言うと、彼女は一気にくしゃくしゃな顔になった。
間違いなく、彼女は僕の為に、さっき泣いてくれて。
今も僕の為に、泣いている。
「先生……、好きです。」
恋愛をして、どうにかなろうとか、そう言う、これからの未来への願望はない。
何も入っていない。
ただの、告白。
「……さよなら。」
今、一度だけ吹き返した、感情。
こういう時。
長ったらしい言葉も。
とりとめのない話も。
意味を成さない。
だから、シンプルに。
「――ありがとう。さよなら。」
そうじゃないと、後戻りできなくなる。
僕は、振り向かないで、手荷物検査の列に並び、そして、搭乗ゲートに向かう際、エスカレーターを降りる。
ふと、目を上げると。
硝子貼りの向こう側に、葉山祈が立っていた。
小さく、控え目に手を振る彼女を見ながら。
とっくに自覚していた想いを、僕は、漸く口にした。
「好きだ。」
君と、君の息子の幸せを、心から願ってる。 fin