レオニスの泪
「こんばんはー、ありがとうございましたー」
「あ、ママだ!」
保育所の階段を上って、直接教室に顔を出すと、隅っこで絵本を読んでいた慧(けい)が直ぐに飛びついてくる。
「おかえりなさい」
その様子をにこやかに見守る先生に軽く会釈をして、慧を引き剥がした。
「ただいま、慧。ほら、ちゃんと絵本片して、帰りの支度しなさい。」
「うー…ん」
ジーパンの裾をぎゅうっと掴んで、慧はもじもじし始める。
「ほら!早く!」
「…はぁい。」
小さなその手を、名残惜しそうに放して、慧は置きっぱなしになっていた絵本の方へと、とぼとぼと向かった。
急かすのは、良くない。
一日自分と離れていた慧が、くっつきたがっているのも、わかる。
だけど、応えてやれる、余裕が、無い。
罪悪感は、常に付き纏っている。
例えば今、慧が生まれてきてくれたら、自分はもう少し上手くやれただろうかと考える事が、よくある。