レオニスの泪

「そ…れは…」



途端に自分の笑顔が引っ込んだのがわかった。


強張る顔の筋肉。




神成の後ろには、少しだけ開かれた窓。


そこから、新緑が見えて、穏やかな風が流れてくる。





「………」



今まで言葉に出来なかった想いが、私の中で葛藤を始める。


吐き出して、外に出ていいの?と。


私はそれを理性で必死に止めようとしている。



だって。


事実、失ったものは。

数え切れない位、ある。




「君だって進路を決めたりしていた筈なんだ。身体のスタイルにだって敏感な年頃だったろう。一番楽しくて何の責任もなくて良い時を、君は失っている。違うかな。」



自分は将来一体何を目指す?


何をして生きていく?


何が得意分野だろう。



そういったもの全てを見定め、やっと決められたあの時。


進もうと思える道を、見出した矢先。



何をしても、楽しくて希望に満ちた日々。




その全てが、ガラガラと音を立てて、崩れたように感じた。




「沢山…」



ぽつ、ぽつ、と。




「本当に、沢山のものを…失いました…」




奪われていったのは、自尊心。




< 62 / 533 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop