レオニスの泪
「祈さんはね、自分のための時間をもっと大切にした方が良い。確かにお子さんの事を考えてやるのは大事なことだし責任だけど、それは祈さんがあってこそ、成り立つことなんだから。」




言いながらふらりと机の上に手を翳し、行ったり来たりさせている。


私が座っている所からはよく見えないのだが、神成は直ぐに何かを捕らえ、こちらに向き直った。




「怒られちゃうから、内緒だよ」



手にしていたのは、缶珈琲二つで。



「本当はちゃんとここで淹れたいけど、仕方ないよね。」



その内の一つを、私にほい、と手渡した。



半ば強引だったので、手を差し出してしまったけれど。




「あの、、、まだ待っている患者さんがいますし―」




こんなのんびりとしていてはいけないだろう、という思いが働く。




「ストップ、祈さん。」



回転椅子に座り直し、既にプルタブに爪を引っ掛けた所だった神成が、声だけで私を止める。


カコ、と缶の口が開いた音がした。



「君は他人を気にし過ぎている。過剰過ぎる位に、だ。今は君が僕の患者で、君の診察時間なんだ。」



そう言って、ベビーフェイスは何故か勝ち誇ったように笑うと、缶珈琲に口を付けた。

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