レオニスの泪
「お子さんの名前はなんて言うの。」
「は、あ…えっと、慧です。慧眼の慧。」
「慧君、か。かわいいでしょ。」
「はい。とても。」
慧の笑い顔が浮かんで、つい口元は綻ぶ。
「会いたがらない?父親に。」
が、直ぐに引き締まる。
「覚えてませんから。会いたいなら会ってもらっても、私は良いんですけど。」
今更だが、珈琲を飲む際にずらしたマスクがそのままだったことに気付き、口元を覆った。
「父親は?慧君に会いたがってるの?」
言葉にするのが、嫌になり。
身体ごとこちらに向けている神成に、首を振って見せた。
「そうか。君は?」
「え?」
「君は、会いたい?」
目を瞬かせ、心臓がドキリと嫌な音を立てたことを、かろうじて隠す。
「会いたい…訳ないじゃないですか…」
もう、顔もよく覚えていない。
最後に会ったのは、いつだったっけ。
でも一日も忘れたことなんて、なかった。
それが愛情なのか憎しみなのか。
見極めることもしなかった。