レオニスの泪
「君はね、自分が思ってるよりもずっと大変な思いをしてきたんだ。苦しくなって当然の状況に居る。だから息が吸いにくく感じたら、庭で会った時にも言ったけど、息を吐くことに専念して。ゆっくり息を吐くんだ。」
そう言われて、あの時のぼやけた記憶が少しだけ甦る。
軽々と持ち上げられた私は、ぐったりとしていて何の力もなく。
小刻みに震えて、息が吸えない恐怖と闘っていた。
薄らと聞こえたのは。
―『安心しなさい。直ぐに楽になるから。』
囁きにも近い。
紛れもなく、今目の前に座っている童顔医者の声で。
冷え切った身体に伝わる熱は、不本意ながらも、私を落ち着けてくれたのだ。
「仕事場までは何で通ってるの?」
「―自転車です。」
「雨の日は?」
「バスです。」
「ま、通勤だけじゃなくても、交通機関を使用した際、曲を聴くかな?」
「あ、はい。結構好きで…」
「それが良い場合もあれば、良くない場合もある。呼吸がしづらいことに気付くのが遅くなるかもしれないんだ。つまりね、周囲の人から圧迫感を感じているのに、耳からは違う内容の音が入る、それでパニックになってしまう可能性もあるってこと。そこはどちらのタイプなのか、考えてみてね。」
「へぇ…」
言われながら、こないだは、パニックになりそうだったのかな、と考え、次回からウォークマンの自粛を決意する。