レオニスの泪
「とりあえず、そこから始めてみよう。何か、僕に訊きたいことはあるかな?」
時計を見れば、良い時間で、私は力なく首を横に振った。
「はい、じゃ、今日はこれでおしまい。お疲れ様。次回はどの日にしようかな。僕はね―」
僅かだが精神科、という物に恐怖を感じていた私は、思いっきり安堵して、病院を後にする頃には、肩の力が完全に抜けていた。
むしろ、心地良かったような気がするのは気のせいか。
いつもの従業員専用ではなく、病院利用者用の駐輪所に停めた自転車の鍵を外しながら、籠に荷物を入れ。
「……あんなに話したの、何年ぶりだろう…」
ぽつ、と呟く。
質問されていたからとはいえ。
相手が医者だからとはいえ。
自分の事を、他人に話したのは、慧を産んでから一度もなかったかもしれない。
大体周囲の母親は自分よりひと回りは違う。
遠巻きにされているのは感じていたし、自分からも線を引いていた。
話たかった、とは思って居なかったが。
―『君はこれまで本当によく、頑張ってきたね。』
褒められたかった、のかもしれない。