レオニスの泪

「一人で、、ですか。それは…どういう…」


首を傾げる私を、神成は、相も変わらず穏やかに見つめている。



「仕事したりとか、家計簿つけたりとか、洗濯とか…子供が寝た後にしていますけど…」



今日は、窓が開いていない。

蒸し暑いせいか、エアコンから出る風が、部屋全体を適度に冷やしてくれていた。


「一人で用事を済ませる時間、じゃなくて、祈さん自身が自分の為に、使える時間のことだよ。」



神成も小首を傾げながら、にこにこと微笑んだ。



「あー…そういう…」



意味だったのか、と今更ながらに理解して、再びどう答えるか、頭の中で考えを巡らせる。


いや、考えるまでもない。


自分自身に使える時間なんて、皆無だ。

強いていえば歯磨きと髪を乾かす時間位か。

それすらも、ほぼ省略、なんて事ざらである。



「ーあ。それこそ、散歩はたまに行ってますけど。」


思い出したように言えば、神成は小さく首を振る。


「それは、眠れないから仕方なくでしょ。そうじゃなくて、自分の楽しむ時間。」


「取れてない…です。」


「じゃあ、今日からやってごらん。10分でも5分でもいい、自分の為に時間を取り分けて。その時間は自分をリラックスする為に使う。珈琲を飲んだり、音楽を聴いたり、本を読んだり、なんなら、目を閉じるだけでもいいから。できるようになってきたら少しずつ、増やしていって。」

< 91 / 533 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop