レオニスの泪
「一人で、、ですか。それは…どういう…」
首を傾げる私を、神成は、相も変わらず穏やかに見つめている。
「仕事したりとか、家計簿つけたりとか、洗濯とか…子供が寝た後にしていますけど…」
今日は、窓が開いていない。
蒸し暑いせいか、エアコンから出る風が、部屋全体を適度に冷やしてくれていた。
「一人で用事を済ませる時間、じゃなくて、祈さん自身が自分の為に、使える時間のことだよ。」
神成も小首を傾げながら、にこにこと微笑んだ。
「あー…そういう…」
意味だったのか、と今更ながらに理解して、再びどう答えるか、頭の中で考えを巡らせる。
いや、考えるまでもない。
自分自身に使える時間なんて、皆無だ。
強いていえば歯磨きと髪を乾かす時間位か。
それすらも、ほぼ省略、なんて事ざらである。
「ーあ。それこそ、散歩はたまに行ってますけど。」
思い出したように言えば、神成は小さく首を振る。
「それは、眠れないから仕方なくでしょ。そうじゃなくて、自分の楽しむ時間。」
「取れてない…です。」
「じゃあ、今日からやってごらん。10分でも5分でもいい、自分の為に時間を取り分けて。その時間は自分をリラックスする為に使う。珈琲を飲んだり、音楽を聴いたり、本を読んだり、なんなら、目を閉じるだけでもいいから。できるようになってきたら少しずつ、増やしていって。」