レオニスの泪
ー四角、じゃない。


そう、思った。



「祈さんの言う通り、このハンカチは、普段なら、四角、だよね。」



言いながら、神成は立ち上がって、私の前にしゃがみこむ。



「手、貸して。」


返事をする前に、私の手首を取り、巻き終わったハンカチをそれに巻きつける。



「でも、怪我をした時には、怪我をした時の形があるでしょう?」



きゅ、と緩めに結ばれた結び目。


「絶対に四角じゃなければいけないなんてことはないよ。手を拭く為だけのものでもないよ。でも、それは、教えてもらわなきゃわからないことかもしれない。」


微かに香る、ミント。


「生き方も沢山あるよ。子育ての仕方も人それぞれ。絶対にこうじゃなきゃいけないっていう型なんか、ない筈なんだ。祈さんは自分でそれを決めてしまってはいないかな。物事はもっと自由で、方法は無限だ。でもそれは、やっぱり教えてもらわないと、見えてこない。」


私の手首に向けられている彼の目。


私からは伏せられた長い睫毛が見えている。


それが、ふいに上げられたから。



「まずは、止血してあげる為の結び方を知る所から始めたらどうかな?」



さっきとは別な意味で、心臓がドキリと鳴った。
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