レオニスの泪
========================
「笹田さん!イケメン先生の顔はもう拝みました!?」
調理場の奥で作業していても、聞こえてしまう、嫌な声。
私は、調味料を混ぜ合わせる泡立て器の動きは止めずに、そっと笹田に目をやった。
「まだよー!遠いんだもの。患者にでもなれば、見れるんでしょうけどねぇ!」
笹田はいつものようにやかましく、大きな声で森に話掛けている。
そういえば、少し前に、森が騒いでいたような気がする。
4月から赴任してきた新しい精神科の先生は、ナースが選り取り見取りとかなんとかって。
一体誰なのかは知らないが、森のしつこさを見れば、さぞかし羨ましいんだろうと思う。
そんなイケメン、私だって出くわしたことがない。
独身者は。
ー神成先生は、多分、相当イケメンかな。
童顔は自分の好みではないけれど。
「そんなにオススメなら、名前だけでも覚えておこうっと。えっと、、なんだったっけ?この歳になると直ぐ忘れちゃうのよー」
ケラケラ笑う笹田が、カウンター越しに、森の肩をバン、と叩いた。