レオニスの泪
「仕方ないですねぇ、こないだも言ったのに。神に成るって書いて、神成先生!わかりました?」



カシャン、カランカラン…



「葉山さん!?」


「あ、すみませ…」



気がつけば、手にしていた器具がいつの間にか抜けて、床に落ちてしまっていた。


「葉山さーん!ドンマイ!」



悔しいかな、要らない森の励ましを受ける羽目に。


こんなに奥にいて、しかもキャップにマスクをしているのに私とわかる辺り、恐るべし、森。



ーびっくり、した。




まさか、自分の主治医が出てくるなんて思わなかったから、少し動揺したらしい。



「すいません、新しいの、出します。」


直ぐに新しい泡立て器を殺菌庫から出して、作業を黙々と続けた。



ー看護師選り取り見取りだっていうから、てっきり独身者かと思っていた。



「神成先生ね。わかった!今度こそ、忘れないようにする!」


「そうですよー!ねぇねぇ!葉山さんも覚えておいてくださいね!」



ギクリ、心臓が嫌な音を立てて。



「…なんで、私が…」



小さく呟いたのが奇跡的に聞こえたのか、私の目がそう言っていたのかわからないけれど。



「もし気に入られたら、再婚できるかもしれないですよー!狙い目!です!医者の中じゃ、給料は少ない方ですけど!」



森が元気に太鼓判を押した。



< 98 / 533 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop