バレない嘘をついてよ。
「どうしたの、あず。何か揉め事? 」
「別に何もないよ」
親しげにアイツは佐伯と話す。
しかも、名前で呼んでいる。
「そう。ならいいけど……」
アイツはチラッと、
俺のことを見た。
「なんだよ」
「いや、別に」
「言いたいことがあるなら、ちゃんと言えよ」
俺はアイツの胸ぐらを掴んだ。
……ムカつく。
この余裕そうな笑顔が。
「やっ夜神! 」
「痛い、離してよ」
アイツは俺を睨みつけた。
佐伯の不安そうな顔。
違う……違う!
俺が見たかったのは、佐伯の笑顔……なんだよ……。
「あず、行こう」
「えっ、澪⁉︎ 」
アイツは佐伯の腕を引っ張り、
俺の前を通り過ぎていった。
本当は”待てよ”って言い、
アイツから佐伯を奪いたかった。
……けど、
そんなことをする気力がなかった。
「なんだよ……もぅ……」
むしゃくしゃする。
佐伯は俺に対して、
不安そうな顔しか見せない。
俺はその場に座り込んだ。