バレない嘘をついてよ。


今の季節とは逆で、
アブラゼミがやかましいほど鳴いている季節。


燃えているような真っ赤な空。




「梓、ここで待ってて! 兄ちゃんが美味しい物を買ってきてやるから‼︎ 」

「えっ……」




この日は、
確か夏祭りだった。


私がまだ5歳くらいの時。
お兄ちゃんは、9歳だったかな?



私はどうしても、
夏祭り行きたいとお兄ちゃんに泣きながらお願いして連れてきてもらったんだ。

私の両親は共働きで、
あんまり家に帰ってこない。


だから、
家族皆んなで出かけたり、あんまりしたことがない。




2人っきりで行った夏祭り。

正直、その頃は人混みが嫌いだった。
内気な性格だったし、
お兄ちゃんに頼りっぱなしだった。


だから……
お兄ちゃんが急にどっかに行った時、
凄く怖くなった。


知らない人達がたくさんいて……
燃えるような真っ赤な空は、
私に恐怖を与えた。




「お兄ちゃん……」




私はそう呟き、
お兄ちゃんが言ってた通りに、焼きそば屋さんの前でずっと待っていた。




< 155 / 222 >

この作品をシェア

pagetop