バレない嘘をついてよ。


私は嘘をついていない。

本当に、
葯伊江とキスなんかしていない。


これだけは、
きちんと誤解を解きたい。


「わ、私は葯伊江とキスなんかしてない。本当にキスなんかしてない! 」

「じゃあ何で、関係ないなんて言ったんだよ」

「えっ……? 」


夜神は机に寄りかかり、
怖い顔をして私に言った。


「だってそうだろう? 葯伊江のことが好きなんだろう、佐伯は」


一瞬、
頭が真っ白になった。


「違う」


私はすぐに言った。

だって、
私は今話しているあなたが好きだから。


「信じられるかよ! 」


夜神の顔はやっぱり怖かった。


あの日……

初めてあったあの日。

私を助けてくれたあの日。

私の涙をぬぐってくれたあの日。



そう。
あの日の夜神の優しさが、
今は全く感じられない。


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