バレない嘘をついてよ。

「ねぇ、清水の後ろに誰かいる? 」



どうしよう……。

あの頃の記憶がフラッシュバックする。



「大丈夫だよ」




小さく震える私に叶は言った。


その穏やかな声のおかげで、
私の心は落ち着いてきた。



「あぁ、いるよ。俺の彼女」

「……ふーん。顔見せてよ」

「ダメ。今疲れて寝てるから」



綾野から見えない位置に、叶は動いた。



「それにしても、まさか清水に彼女がいるなんて思わなかったよ。……じゃあ、彼女と別れたら私を彼女にしてね」



綾野は私達の前を通り過ぎていった。


その時、
私は綾野を見てなかったけど
綾野が私のことを睨む視線は感じた。



そりゃあそうだよね。
綾野が、叶にぞっこんというのは有名。



「……ありがとう、叶」

「どういたしまして。……帰ろうか」




叶はまた、ゆっくりと歩き出した。

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