【完】向こう側の白鳥。
靴音が響いた。
人気のない静かな廊下にそれは、よく響く。
「……昼休み、もう終わるぞ。」
聞こえてきた声に、心が落胆したのがわかった。
「なんで、沢渡先輩なんですか……。」
まるで八つ当たりのような言い草。
……少しばかり期待していた自分に腹が立つ。
もしかしたら、一ノ宮先輩が追いかけて来てくれるかもなんて……。
「俺だと不満か。」
「不満です……。」
私の好きな人は一ノ宮先輩なんだから……。
「一ノ宮先輩がいい……!」
一ノ宮先輩に、愛されたい。
……誰かの代わりじゃなく、“白鳥柚子”として……。
叶わない願いも、大き過ぎた。