【完】向こう側の白鳥。
先輩にとって私が誰かの“代わり”だとしても。
ただの使い捨ての駒だとしても。
「先輩と過ごす時間は、私にとって素敵な思い出になるから。」
美化しすぎだ。
自分で言ったくせに思った。
素敵な思い出だけじゃない。
先輩に近づけば近づくほど、辛い思い出も増えていく。
悲しい思い出も、醜い思い出も。
そんなことは分かってるんだ。
分かっていても離れられないのだから、苦しい。
「……お前も……同じ決断をするのだな。」
お前も……?
その意味を聞く前に、沢渡先輩は私を追い越して行った。
私は美術室の扉に体を預け、ただ上を見上げた。
……涙が、零れないように。