【完】向こう側の白鳥。
「ふんふん、ふ〜ん♪」
歌を口ずさんだ。
お姉ちゃんがよく歌っていた歌を。
一ノ宮先輩の切ない瞳には、気づけなかった。
――「先輩、今日はありがとうございました。」
一ノ宮先輩はチョコレートを食べて寝ていただけなんだけど、一応御礼は言っておく。
「俺は何もしてない。」
知ってます。
風が、私と一ノ宮先輩の間を通る。
まるであの日。
初めて会った道路の向こう側。
そして、私達の今の関係。
私と一ノ宮先輩の間には、まるで薄い壁がある。
決してその壁は厚くないのに、私にはその壁を壊すことも越えることもできない。