【完】向こう側の白鳥。
「泣け。」
沢渡先輩は優しく、私を抱きしめた。
一ノ宮先輩とは違う腕、
一ノ宮先輩とは違う体つき、
一ノ宮先輩とは違う雰囲気。
……だけど香りだけは、一ノ宮先輩と同じ……。
「泣けよ。」
「ふっ……ぅ、……ぁああっ、あぁ。」
『泣け。』
その言葉が、鍵だった。
「ひぅっ、うぅう、せんぱ……せんぱい! いちのみや、せんぱい!」
――そこから先、私はずっと、泣いてばかりいた。
沢渡先輩は何も聞かず、何も言わず……。
ただただずっと、優しく、今にも消えてしまいそうな私を包み込んでくれていた。