【完】向こう側の白鳥。
皮肉にも、沢渡先輩からは一ノ宮先輩と同じ香りがして、暖かかった。
「……こんなお前を見るぐらいなら……。」
沢渡先輩が途中、小さく呟いた気がした。
でも泣くことに精一杯な私は、その一言さえも耳に留めることが出来ず、私は朧げに言葉を逃した。
「……柚子……。」
その一言はとても切なげ。
とても、苦しげに聞こえた。
『……俺は、“柚子”に会いたかったから。』
『ここにいて、柚子……。』
『……浴衣、似合ってる。』
一ノ宮先輩を忘れられない、きっと、生きている限り。
先輩の声がずっと、私の頭の中で反響していた。