【完】向こう側の白鳥。
「元々、紫苑に香りなんてねえんだよ。俺ん家に居座り過ぎて、俺の香りが移ったんだ。」
そう言えば……沢渡先輩と初めて話したとき。
先輩に後ろから抱きしめられて、一ノ宮先輩の香りがしたんだっけ……。
あれは一ノ宮先輩の香りじゃなくて、沢渡先輩の香りだったんだ……。
にしても、居座り過ぎてって……。
「一ノ宮先輩、家帰ってないんですか?」
「あんまりな。紫苑母親とは仲悪いし。」
あぁ……知ってます……。
お世辞にも仲が良いとは言えないぐらい、二人が顔を合わせたときの雰囲気は酷い。
どちらかと言えば、一ノ宮先輩が一方的に嫌ってるようにも見えたけど……。