【完】向こう側の白鳥。








胸ポケットから取り出した煙草に火をつける沢渡先輩。



相変わらずのニコチン中毒者。





「……でも、もう一つ理由があるんだ。」



「え?」





私の耳に沢渡先輩は口を近づけた。



吐息が耳にかかって、少しくすぐったい。








事を聞いた私は、こんなところにもある一ノ宮先輩の優しさに、涙が零れそうになった。





「うそ……。」



「嘘じゃねえよ、お前と付き合ってからは毎日だ。」





……先輩は、残酷なのか優しいのか分からない。





甘い言葉と仕種で私を縛りつけて。


なのに内側には残酷な真相を隠しておいて。





……その上、涙が零れそうなほどの優しい想いを残してくれている。








< 232 / 390 >

この作品をシェア

pagetop