【完】向こう側の白鳥。
胸ポケットから取り出した煙草に火をつける沢渡先輩。
相変わらずのニコチン中毒者。
「……でも、もう一つ理由があるんだ。」
「え?」
私の耳に沢渡先輩は口を近づけた。
吐息が耳にかかって、少しくすぐったい。
事を聞いた私は、こんなところにもある一ノ宮先輩の優しさに、涙が零れそうになった。
「うそ……。」
「嘘じゃねえよ、お前と付き合ってからは毎日だ。」
……先輩は、残酷なのか優しいのか分からない。
甘い言葉と仕種で私を縛りつけて。
なのに内側には残酷な真相を隠しておいて。
……その上、涙が零れそうなほどの優しい想いを残してくれている。