【完】向こう側の白鳥。
いつも無愛想な沢渡先輩の表情とは思えないぐらい、今の先輩の顔は焦っていた。
いくら私でも、ただ事じゃないことがわかる。
沢渡先輩がドアの向こうまで聞こえるように大声を上げれば、今までの雑音はピタ、と止まった。
「柚子、隠れとけよ……。」
少し疲れたような顔で指示した沢渡先輩。
え、ちょ……隠れるって、一体どこに……?
隠れられる場所なんて……。
「あ……。」
辺りを見渡して、一番に目に入ったのはカーテン。
色は黒だから、足さえ見えないようにして体を固めていたらバレないかも……。
このリビング内で、あそこ以上に良い場所は無いと思う。