【完】向こう側の白鳥。
一ノ宮先輩が来る前に、沢渡先輩が教えてくれたことを思い出す。
私の耳に唇を近づけて沢渡先輩が教えてくれたのは、私の知らない一ノ宮先輩。
一ノ宮先輩の、優しい暖かさ。
『良く俺ん家に来ては紫苑、ベランダから見てる。お前の部屋の電気が消えるまで、ずっと見守ってる。』
『家にお前が一人って、知ってるからだろうな。』
『お前が寝るまで、紫苑は絶対寝ないし、家にも帰らねえんだ。』
一ノ宮先輩は、やっぱり残酷だ。
先輩の優しさこそが、残酷なんだ。
「柚子……!」
そして、私を呼ぶ声が一ノ宮先輩のものじゃないということで、気を落とす私も……。
先輩にとっては、残酷なんだと思う。