【完】向こう側の白鳥。
「そんなお前に、俺は惹かれたんだ。柚子を守りたいと思ったんだ。」
沢渡先輩が私の手を握る。
私の手を握る先輩の手は暖かくて、そして力強い。
「……この夏、ずっと考えていた。俺は身を引くべきなのか……それとも、紫苑からお前を奪うべきなのか。」
「先輩……。」
「一度はっ…………さっきまでは、身を引こうと思っていた。」
繋いでいた手が引かれ、腕の中へと誘い込まれる。
体格も声も違うけれど……香りだけは同じ、一ノ宮先輩の香りがする……。
沢渡先輩の香りでも、私にとってこの香りは一ノ宮先輩の香りだから。
「だけど……!!」