【完】向こう側の白鳥。
さっきまで私が一ノ宮先輩にされていたように、ギュッと強く強く抱きしめられる。
……まるで、私を逃がさないかのように。
「……だけど、やっぱり無理だ。泣くお前を、……柚子を、一人には出来ない。」
一ノ宮先輩の甘さを毒牙と例えるのならば。
沢渡先輩の優しさは麻薬。
心に傷を負った今、沢渡先輩の優しさはダメだと分かっていても縋ってしまう薬。
傷口から入り込んで、私をおいでおいでと誘い込む。
イケナイ優しさに、縋れと。
彼を利用しろ、と。
「……柚子……俺と、付き合ってくれ。」
『絶対に、辛い想いはさせないから。』