【完】向こう側の白鳥。
目をつぶれば、一ノ宮先輩の香りが鼻に入って来る。
……一ノ宮先輩に、告白されているようだった。
それでも目の前の人が、一ノ宮先輩じゃないことぐらい分かっていた。
分かっていながら、私は……。
「よろしく、お願いします……。」
沢渡先輩を、拒まなかった。
一ノ宮先輩より少し広い背中に両腕を回して、
一ノ宮先輩より固い胸板に頬を寄せる。
大好きなこの香りも、何度も香れば一ノ宮先輩よりほんの少し香りが濃いことが分かる。
「柚子……!」
嬉しそうに私の名前を呼ぶ沢渡先輩に、心の中で謝った。
閉じた視界の先、一ノ宮先輩がジッとこっちを見ていること。
……私は知らない。