【完】向こう側の白鳥。
話し掛けなかった。
何となく、深い意味は無い。
ある程度の距離を保って沢渡先輩の後をついていく。
音楽を聴いている様子の先輩は気づかない。
何だか、おかしな気分。
「……わっ!」
急に後ろから手を引かれた。
ガサッと音がして、近くの茂みに連れ込まれる。
ゆ、誘拐!?
なんて、突然のこと過ぎて思ってしまった。
「ごめん、急に……。」
でも声を聞いて、そんな考えは一気に無くなった。
だって、私はこの声を知っていて。
この声は、私が何よりも大好きな人の声だから。
目の前にある腕に腕を絡めて、ソッと呟いた。