【完】向こう側の白鳥。
「先生っ、ありがとう!」
早足で保健室を出れば、後ろから泣き声混じりの叫びが聞こえた。
「白鳥が俺のこと“先生”って呼んだぁぁー!!」
…………。
六時の鐘が鳴る。
どうやら私は、三十分近くも眠っていたらしい。
沢渡先輩とメールする、以外の理由で携帯を開くのは久々だ。
時刻は午後、十八時一分。
十月十五日、金曜日。
秋風を感じて、夏とは違う空の暗さを見上げて。
いつの間にか、夏はとっくに終わっていたことを実感。
ふと頭の中の記憶。
一ノ宮先輩と行った、大好きな絵の溢れた美術館と。
一緒に見上げた、彩られた花火が空を描く夏祭りを思い出した。