【完】向こう側の白鳥。
「……昨日は、止めるつもりだった。」
「止める?」
「その時から果穂の奴、ずっと怒ってて。昨日会う約束をして、果穂を宥めようとしてたんだけど。」
「……アイツ、見事に約束すっぽかしやがった。」
それであのあと、果穂さんは学校の前で一ノ宮先輩を待ち伏せして。
昨日六時に出て来た先輩に、怒りをぶつけたんだ。
私と、お姉ちゃんの為に……。
「…………。」
沢渡先輩がジッと私を見ていることに気づかず、私は目の前の空になったマグカップを見つめていた。
心の内は、果穂さんの優しさと、一ノ宮先輩への不安で覆われている。
沢渡先輩がソッと、私の手を握った。