【完】向こう側の白鳥。
「じゃあ。俺、部活あるから。」
コツコツと近づいてくる足音。
嘘っ……先輩、こっちに来る……?
慌てて踵を返し、三階へと駆け上ろうとした。
そのとき、
「しっ……。」
後ろから誰かに体を引かれ、口元を手で覆われる。
体格と声からして男の人。
階段の影に隠れた私達に気づかず、一ノ宮先輩は三階へと上って行てしまった。
「……紫苑、行った?」
小さく頷けば、口元を覆っていた手と体を支えていた手が離れる。
それを合図に、私は大きく息を吸い込んだ。
同時に、先輩と同じ匂いが鼻につく。