【完】向こう側の白鳥。
そのときはまだ、先輩の名前も学年も知らなくて。
ただただ、綺麗な人ってだけの認識。
でも制服が同じで、少しだけ嬉しく思った。
……今となっては絶対思わないけど。
私が一ノ宮先輩の名前を知ったのは、そのあとの入学式。
在校生代表として、彼は舞台の上に立っていて。
凛々しい声で、淡々と言葉を繋ぐ先輩。
「――良き高校生活を三年間、この平沢高校で歩んでいって下さい。3年1組、一ノ宮紫苑。」
その祝辞は決して、一ノ宮先輩が本当に心から思ってるものではない。
新入生を歓迎する為の、表面の言葉。
わかってても、彼の言葉には引き付けられる何かがあった。