【完】向こう側の白鳥。
ズキッと酷い音を立てた胸に、気づかないふりをした。
この胸の音には、気づいてはいけない気がしたから。
自ら私は、傷つきに行くなんてことはしない。
みんなが騒いでる恋の話。
“好き”
“付き合った”
“振られた”
そんな話ばかりを耳にする。
私は恋なんてしない。
大切な人なんて、もう要らない。
もう誰も失いたくない。
傷つきたくない。
「――……白鳥さん?」
一ノ宮先輩の声がして、慌てて体を離した。
「な、何ですか……?」
先輩はいつもの先輩に戻っていて、さっきまでの震えが嘘かのように堂々としていた。