蝶は金魚と恋をする
一琉がゆっくり唇を離すと今更な言葉を言ってきた。
「ね、俺風邪ひきそう…」
「ふっ…、だね。早く服着ないとだよ」
「着替えないし…。ま、いいや、凪から体温も~らおっ」
はいっ?!
語尾にハートマークでもついていそうなセリフを吐くと、一琉は私をマットレスの上に押し倒して布団を被る。
寝なれた筈の場所が何だか別の物に感じて、狭いシングルサイズの上で一琉に強く抱きしめられた。
「ははっ、温か~い。凪いい匂いするし」
「匂いを嗅ぐな!しかも、あんまりくっつかないでよ」
ワタワタと暴れてみるのに一琉はクスクスと笑って私を離す気配がない。
抵抗も疲れて仕方なく大人しくしてみると、一琉はイイコ。と呟いて、私の頭に優しく口付けて。
なんだか酷く甘やかされている状態に恥ずかしさが募って、紅潮する自分の顔を見られない様に一琉の鎖骨に頭を寄せた。
クソッ、男のくせに肌が綺麗でムカつくな。
なんて理不尽な事を頭で思っていると、一琉が優しく頭を撫でる。
「凪……、眠りなよ。……泣いたし、疲れたでしょ?」
「寝込み襲う?」
「しないよ。せっかくの凪の初めてはお互い意識のある時でないと勿体無いし」
それは喜んでいいのかな?
貞操の危機って言う気がする。
それでも、人肌の温もりって不思議だ。
もの凄く心地よくて、更に一琉の優しい手の動きが眠りの世界に誘ってくる。
意識もうつらうつらとしてきて目蓋が重くて仕方ない。
そんな中で一琉の言葉が頭に響く。
「おやすみ……、俺の初めての恋人……」
初めて?
一琉の初めて………か……。
何か……悪く…ない…。
そんな風に思ったのを最後にプツリと意識が途切れていった。
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「凪……、騒がしくなるけど許してね」
腕の中で眠る凪を見つめて口元に弧を描く。
自分に独占欲があるなんて知らなかった。
恋心なんて甘い感情まであるなんてね……。
すっかり寝息をたてている凪を更に抱き寄せると、初めて感じる安堵に沈んで自分も眠りの中に飛び込んだ。