蝶は金魚と恋をする




「すみませーん。ヤクザは間に合ってまーす」


「一琉っ!てめっ、開けろコラっ!」


「新婚夫婦の邪魔はやめてくださーい」


「ふざけんな!早くあけろ!」


「ちっ…、近所迷惑だっつーの……。凪ぃ、こいつ入れてもいい?」


かなりの不愉快顔で扉を指差す一琉に頷き返すと、一琉はようやく玄関の鍵を開けた。


一体どんなヤクザが立っているのかと思ったら、扉を開いた先にいたのはこれまた整った容姿でベージュに近い髪色の高そうなスーツに身を包んだ男だった。


ヤクザと言うより高級ホスト?


見た感じ一琉より歳上な感じのその人はかなり不機嫌そうな表情を浮かべていて、一琉に睨みを効かせるとようやく普通のトーンで文句を言い始めた。



「お前は~、世話やかすんじゃねぇよ。どんだけ探しまくったと思ってんだ?!」


「知らね。知っても俺の特にはならないし」


「おにぎりを置け!っつーか、何しれっと食ってんだよ!毒でも入ってたらどうすんだ!?」


「おい、勝手な事口走るんじゃねぇよ下僕。凪が傷つくだろうが」


そこに来てようやく一琉とその人の視線が私に移った。


なんだか注目を浴びて背筋を伸ばして2人を見つめてしまう。


「こ、こんにちは…」


軽く頭を下げるとその人はかなり困った様に溜め息をつくと一琉を睨みつける。


「……幾らで買収したんだ彼女」


ば、買収?


あまりに衝撃的なセリフを吐くその人を驚きながら、ただ呆然と見つめてしまう。


一琉はその一言でかなりの鋭い睨みを返している。


「おい、凪を侮辱するんならぶっ殺すぞ…」


「何を本気ぶってんだよ?いつだっていい加減な気まぐれ男が。どうせ彼女だってその場しのぎの逃げ口にして捨てる気だったんだろ?」


えっ……。


嘲笑を漏らしながら、軽く人を見下したように憐れんだ目を向けてきた美麗な男。


衝撃的な一言に手にしていたおにぎりを落としてしまった。


一琉はやっぱり……、私をからかっていたのだろうか…。


そう思ったら何だか急に悲しくなって、昨日の温もりなんかも嘘っぱちで再び1人に戻るかもしれない恐怖に涙が零れた。

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