蝶は金魚と恋をする
赤くなりながら抗議をしても一琉を喜ばすだけらしく、可愛いとばかりに抱きしめられる。
アホだ!この光景はアホすぎる!
抱きしめて頭を撫でてくる一琉にとって、今の私は猫的な扱いを受けている気がする。
そんな羞恥に満ちた状況をぶち壊してくれたのは秋光さんの呆れた声だった。
「やっぱ……、何も話してねぇな一琉…」
眉根を寄せて、引きつった笑みを浮かべる秋光さんに、一琉はとぼけたような笑みを浮かべる。
「全部捨てて駆け落ちするんだし話す必要もないでしょ?」
「アホか!お前の一存でどうこうなる話でもないだろ!」
「だから、俺は叔父さんに会いに来たんだけど…ね」
そう含みある言い方をしてから一琉は私に視線を移した。
一琉が凄艶と表現出来る笑みで愛おしそうに私の頬にふれてくる。
「叔父さんに会う前に……、運命的な出会いしちゃった…」
運命…。
ああ、なんか一琉が昨日もそんな事を呟いた気がする。
アレは私にかかっていたのか。
何だか色々と突っ込みどころ満載の会話だった筈なのに、一琉の笑顔で全ての疑問を流されそうになる。
やはり、ふわりふわりと飛ぶ蝶を捕まえる事は容易でない。
「運命ねぇ…。お前の口から零れそうにない言葉なのに。しかも何強烈な後ろ盾作ろうとしてんだよ」
「いや、悪いけど親父の案でもあるよ。すんごぉく遠回しで不満そうだったけどね」
相変わらず私には話の内容が理解出来なかったけど、秋光さんが諦めたように溜め息をついたのは理解した。
チラリと私に視線を移すと一琉が庇う様に私を隠した。
「はいはーい、凪にセクハラしないで下さ~い」
「見ただけだろうが、どんな独占欲だよ!?」
「お前の視線で凪が妊娠したらどうしてくれんだよ」
「しねーよ!アホか!ってか、俺を何だと思ってるんだよお前は!!」
「歩くセクハラ男」
「えっ、俺なんか泣いていい?それともお前をボコっていい?」
そう言って指をパキリと鳴らしながら秋光さんが玄関に上がりこんでくる。
あっ、土足…。
と、注意をしようと口を開くと一琉と言葉がかぶってしまった。
「「ここ、日本だから」」
言った瞬間に顔を見合わせてしまう。