蝶は金魚と恋をする
「凪~、デスティニ~!さすが夫婦~」
「まだ婚姻届も書いてないわ!」
「秋光~、役所で婚姻届取ってこいよ~」
「てめ、全部捨てて駆け落ちすんなら俺に命令出来る立場じゃねぇだろ!」
「悪いけど、悪友のお前を捨てるなんて絶対に言わないけど」
ニヤリと勝ち誇った笑みで言い切った一琉の言葉に秋光さんが悔しそうに押し黙った。
今の一言で、2人の関係が割と深いものだと気づいてしまう。
つまり喧嘩はこの2人の仲良しバロメータなのか。
秋光さんが不満そうに眉根を寄せて座りこむ。
「ずりぃ…。お前って本当に嫌なヤツだよ…」
「うん、悪いね秋光。俺根本的に大好きな物は溺愛するか虐めるかの2択だから」
「その子は溺愛なわけね?」
「凪は可愛いからね。抱きしめてキスして甘やかしたくなるんだよ」
そんな言葉を証明するように、一琉の唇が私のこめかみに触れた。
さすがになれてきた状況で、唇じゃなきゃもういいや。と、抵抗をやめてしまう。
「………えっと、…凪…ちゃん?」
不意に呼ばれ、弾かれたように顔を上げると微妙な表情の秋光さんに見つめられる。
「こいつの傍にいると騒がしくなるよ?」
「もう充分秋光さんで騒がしいですけど…」
「言うねぇ…。でも、一琉といるには常識を頭から叩き出さないと体がもたないよ」
「ええ、ヤクザな下僕さんが来たり?」
「………なんか、俺嫌われてる?」
秋光さんが困惑した笑みで私に疑問を向けてくる。
嫌いとかでなくて……。
スッとテーブルの上のおにぎりを指さして、恐る恐る言葉を紡ぐ。
「………秋光さんも…、食べませんか?」
その言葉に秋光さんが呆気に取られてからクスリと笑った。
「え~、秋光にまであげなくていいのに」
「うるせぇな。家主が進めてるなら食う権利あるだろうが」
不満そうな一琉もどこか楽しげに突っ込みをいれて、秋光さんは気まずそうにおにぎりに手を伸ばした。
「いただきます…」
私の顔を見てからおにぎりを口に運ぶと少ししてクスリと笑いを零す。
「久しぶりに食ったかも…」
「どう?凪の毒入りおにぎりは?」