蝶は金魚と恋をする
一琉は狡い。
コロコロと表情を変えて昨日から私を翻弄する。
近づいて捕まえようとすると飛びたって、不意に人の目の前に飛んでくる。
ひらりひらり舞って、蝶の様な男だと思う。
「分からない。まだ、キスしたいとかよく分からない」
そう言い切ると、一琉は再び溜め息をついて離れてしまった。
少し寂しいと思った心にドキリとする。
「凪って本当に金魚みたい。捕まえたと過信して、すくい上げようとするとスルリと逃げて。
………でも、いつまでも通用すると思ったら大間違いだよ」
妖艶な笑みで牽制の言葉を私に告げると、一琉の指先が僅かに服に侵入して私の腰にある金魚に触れた。
ああ、体の芯から発火する。
熱くて苦しくてもどかしい。
「……っ…でも……、一琉とのキスは…
………好き……」
言ってすぐに正気に戻って、一琉の驚いた顔に更に羞恥が高まり扉から逃げ出そうとする。
だけど逃げ切れる訳もなく、捕まって直様抱きしめられると妖艶な視線に絡め取られた。
「本当にさ…、可愛いすぎて耐えられない。こんな風に女の子に思うの凪が初めてなんだけど…」
「う、嘘だ……」
「本当……。大事じゃなきゃ、無理矢理でもヤってるし」
「昨日会ったばっかりで、私の事なんか知らないくせに…」
少し意地悪なセリフだと思った。
好きだと言ってくれているのに意地を張って。
まだ、上手く甘えきれないのは未だにどこか人に甘えるのが恐いからだ。
きっと、一琉も呆れてくる。
「知ってるよ……」
一琉の声が優しく響いて、胸に押し付けられていた顔をゆっくり上げると、声と同じ様な優しい笑みを落とされた。
「凪は………寂しがり屋だ……」
「一琉……」
「だから………ベタベタに甘やかしたくなる……」
腰の横に落ちていた手をゆっくり、恐る恐る一琉の背中に回した。
ギュッと力を込めるとより一琉に密着して穏やかな鼓動が響いてくる。
「………凪?……俺は傍にいるよ」
「うん……。ありがとう………」
言いながら柔らかく微笑むと、一琉の優しい唇の感触を自分のそれに重ねられた。