蝶は金魚と恋をする
「い、一琉の……ばかぁ…。グスッ……」
「凪、ゴメン、泣かないで?ね?やりすぎちゃった……、ごめん……」
「やぁ……、うっ…、触らないでぇ……」
「(ヤバイ、何でこんなに可愛いんだろ…)」
泣いて目をこする私を、何だか小動物を愛でる様な視線で見下ろす一琉。
ムッ…、こいつ、反省してない。
「一琉……嫌い……」
かなり低いテンションで呟くと、軽くショックだったらしい一琉が眉尻を下げて私の服を摘まんでくる。
「………嫌いとか……言わないで?…凪」
「…………知らない…」
「え~、凪ぃ、許して?ね?」
可愛いらしく顔を覗きこんでくる一琉を押しのけると、玄関扉を開けて1人で外に飛びたした。
パタリと閉めてその扉に寄りかかると、内側からコツンと音が響いて一琉の気配を強く感じる。
「凪……、ごめんね…。大好き……」
「そ、それ言えば許されると思って…」
「思ってる。………凪は…、許してくれる…」
本当に狡い。
私を分かりきってるみたいな言い方しないでよ。
何も知らないくせに………。
日が高くなってジリジリと暑い外の空気にじわりと汗が浮いてくる。
速まる動悸を押さえながらゆっくり玄関扉を開けてみると、困った笑みを浮かべる一琉が私を見つめた。
「………許して……くれる?」
「………掃除……手伝ってよね?……一琉のせいで大遅刻……」
「勿論……、凪が許してくれるなら…」
言い終わるなり私の指先に一琉の指先が絡みついてギュッと握りしめてきた。
こんな風に誰かと手を繋ぐのもどれ位ぶりなんだろう?
部屋の鍵を閉めると、暑い空気の中を手をつないで歩き始めた。
「暑いね~。汗かくわ」
「帰る前に銭湯でお湯に浸かればいいよ。……あっ、でも着替えないのか…」
「大丈夫。秋光に持ってこさせるから」
秋光さんの不機嫌な顔が目に浮かぶ。
でもきっと、文句をいいながらも言う事をきくんだろうな。
想像しながら口元に弧を描くと、それに気づいた一琉も軽く笑った。
何だか居心地のいい時間を過ごしながらいつもの道を歩いて行く。