蝶は金魚と恋をする
日差しのから受けた熱がアスファルトを通して伝わって、フラリとしそうな熱気を体に感じる頃に通い慣れた銭湯に着いた。
鞄から鍵を取り出すと、昔ながらのガラスのスライドドアの鍵を開け、横に扉を引くとガラガラと音を立てる。
「へえ、セントーってレトロ?」
「かもね。ウチは特に昔からの銭湯だし」
「じゃあ、ここは凪の家族がやってるセントーなの?」
「うん……、お祖父ちゃんがね今もやってて、歳もとって来たし最近は私の方が長くここにいる感じ」
「ふーん、凪のお父さんお母さんは手伝わないんだ?」
「…………うん、…手伝えない所にいるからね」
キョロキョロする一琉を招き入れ、扉を閉めると中に上がった。
朝風呂の熱気とお湯の独特の匂いを感じながら乱れていたカゴを綺麗に重ね直すと、自分の手首にあったヘアゴムで髪をしばりあげる。
「凪~?何で同じ部屋が対象的にあるの~?」
「ん?ああ、私が今いるのが女湯。反対が男湯だからよ」
「ふーん、仕組みは温泉と一緒なわけか~」
納得したらしい一琉が楽しげに私の近くに寄ってきた。
置いてあるものが珍しいらしく、色々触って確認している一琉を見てクスリと笑ってしまう。
スカートの下から短パンに穿き変えると、掃除用具のモップを2本手にして浴場のガラス戸を開けた。
「一琉、来て」
「ん?何手伝えばいいの?」
「このモップ持って、こっちのホースで水が出るから床掃除して」
「了~解」
私から楽しそうにモップを受け取ると、言われた通りに始める一琉。
それを確認すると、乱れている桶を重ねたり椅子を定位置に置き直していく。
浴槽からの熱気で軽く汗も流れ始め、一琉を振り返ると同じ様に汗をかいていて、額を流れる汗を手で拭っている。
見兼ねてタオルを手にすると一琉の頭にばさりとかけた。
「暑いでしょ?タオル巻いてあげる」
「コレ毎日1人でしてるの?」
「慣れよ、慣れ」
「何かカッコイイ…」
ニッと笑って賛辞を述べる一琉に、僅かに照れながらありがとうと小さく呟いた。
一琉の頭にタオルを巻くと、隣りと繋がっているボイラー室を通って隣に移る。