蝶は金魚と恋をする
同じ様な作業を続けて、さすがに暑さにくらりときたタイミングで一琉に声をかけようと振り返るとドキリと心臓が跳ねた。
「な、何でTシャツ脱いでるの?」
「えっ?だって汗でビショビショなんだもん」
「まぁ、そうか……」
脱いでる理由には当てはまるし、ってか、何で今更一琉の裸に動揺してるんだろ私。
チラリと盗み見ると一琉の蝶々に視線が行ってしまう。
妖艶な紫の蝶。
のぼせそうなのは熱気のせいか、一琉のせいか。
うっかり見惚れてしまうと、一琉の色素の薄い眼と視線が絡む。
「凪?のぼせてる?顔真っ赤」
「えっ?あっ、うん、暑い!」
慌てて手で扇ぐようにすると、悪戯そうにニヤリと笑った一琉がホースの水を私に向けかけてきた。
痛いくらいの水圧の水に怯んでパニックになって後ろにさがった瞬間に足が浴槽の淵にあって見事湯船に後ろから転んだ。
「凪っ!?」
さすがに驚いた一琉の声がして、一瞬沈んだ顔を出して呼吸を整えると睨みつける。
「一琉…、何してくれんのよ…」
「ごめん、ちょっと驚かすつもりが…」
ケラケラ笑うと私に近づいて来てマジマジと見つめだす一琉。
何よ?
「………金魚は水の中のが綺麗だよね」
「はっ?」
「濡れた凪は魅力的だって事……。すくいあげて自分の物にしたいくらい…」
妖艶な笑みで私に手を伸ばしてくる一琉の手をドキドキしながら掴むと、お湯の中から引き上げられた。
ザバリと豪快な音がして、お湯から出て一琉の前に立って見上げてしまう。
「金魚すくいに成功した…」
クスリと笑った一琉が服の上から私の腰の金魚に触れてくる。
濡れた服が体に張り付いて、不思議な密着感がこの微妙な空気を作りあげるパズルのピースみたいだ。
一琉の顔がゆっくり私に近づいて、それに殉じて私もゆっくり目蓋を閉じ始め。
唇が触れそうな時だった。
「凪~、掃除終ったか?」
ビクリとして一琉と僅かに距離をおくと、脱衣所の入り口を見る。