蝶は金魚と恋をする
そんな秋光さんが手にしていた袋から何かをガサリと取り出して私の前に置いてくる。
ちょこんと置かれたソレは白玉が3つ程入っているあんみつだった。
「好きか分からんが、一琉の面倒とおにぎりの礼だ」
「あ、ありがとうございます。好きです」
「そ、良かったよ」
僅かに照れた様子で私の頭をくしゃりと撫でて。
お互いにクスリと笑いあったタイミングで一琉の不満そうな声が響いた。
「秋光~。ご主人様に報告が先じゃないの~?何、凪に餌付けしてるわけ?」
「つまらん嫉妬は見苦しいぞ一琉。ほら、着替えと……。後ろ盾の大御所様からの伝言だ」
胸ポケットから何やら紙を取り出して一琉に渡すと、一琉は紙を開いてニッコリ笑った。
「叔父さん元気そうだった?」
「まぁな。お前の奇行にひどくご満悦な感じだったよ」
呆れた表情で溜め息をついた秋光さんに一琉はクスクスと笑い声を漏らしていく。
昨日からやたら話題に上がる叔父さんの存在が気になってしまう。
一琉が信頼をおくという事は、一琉はかなりその人が好きなんだと思う。
どんな人なんだろう?
「おい~、一琉~、まだ酒盛り途中だぞ~」
脱衣所からお祖父ちゃんの声が響いて頭を抱えてしまう。
本気で飲んでいるとは思わなかったし。
呆れ顔で一琉を見ると、意地の悪い笑みを綺麗な顔に浮かべている。
だけどそれは私に向けた物ではなく、鋭く狙った標的は下僕だと弄り倒している秋光さんだった。
秋光さんもソレに気づくと、今までに無いくらい怯んだ表情を一琉に返す。
「あ~きみつ、いやいや、ご苦労様。よく働いてくれたお礼に一杯やれよ」
「え、遠慮します一琉様。お、恐れ多くて飲めません」
「へぇ、ご主人様の進めるお酒が飲めないんだ?給料カットしてもいいんだよ?」
「この鬼畜…」
「ははっ、腹くくれよ秋光」
何だかいつも以上に追い詰められた秋光さんが、死刑囚の様な顔つきで脱衣所に上がりこんで行った。
なんなんだ?
ちょっと気の毒な感じがしたけど。
秋光さんが加わった事で騒音がました脱衣所に溜め息をつくと、今しがた貰ったあんみつを口にする。
甘くて美味しい。
黒蜜の甘さに酔いしれていると、中からバカ笑いが響いてきたけと無視して白玉を一つ頬張った。