蝶は金魚と恋をする
少し涼しくなった夜風が私の後ろから吹き抜けて秋光さんを煽っていった。
「……帰らねぇのか?」
「えっ、あっ、あの……」
邪魔だったかな?
ビクビクと怯えて言葉を返せずにいると、秋光さんの視線が再び絡んだ。
「帰らんなら座れば?」
「えっ?!」
「…………そんなビビらんでも…。俺そんな恐いか?」
恐い。
とは、言えない……。
恐る恐る秋光さんの隣に座ってみる。
ひどく緊張しながら固くなっていると、ソレを横目に見ていた秋光さんがクスリと笑った。
「ふっ……肩、力入りすぎ……」
「す、すみません……」
「謝らんでも……」
「………」
とうとう返す言葉もなくなって、ドキドキと煩い動悸に苛まれながら自分の膝の上の手を握ってしまう。
不意に肩にとさりと重みがかかって、秋光さんの髪が頬に触れる。
瞬間的に心臓が破裂したかと思ってしまった。
「あ、秋光さん!?」
「悪い、少しだけよっかからせてくれ……」
頬をくすぐる髪の毛に激しい緊張が走り泣きたくなる。
初めての男の人との至近距離に固まっていると、秋光さんの柔らかい声が耳に流れこんだ。
「タオルと……ラムネ……ありがとうな……」
ゾクリと体を走った何かに驚いた。
そして、優しい声音に恐怖心は薄れていって。
秋光さんの重みを感じながら夜空を見つめた。